遠く沖合に浮州を臨む北浦の背後には、観音崎と呼ばれる高さ40mの断崖が
そそり立っています。 前回、北浦が日没後みたいに暗かったのは、そのせい

観音崎もまた姫島火口のひとつです。 が、長さ120mにも及ぶその崖は何と、
まるごと黒曜石なんですね~

今回7つめにして最後の 姫島七不思議 『 千人堂 』 が建てられているんです


解説板によると、観音崎の断崖上に建つ二坪余りの小さなお堂 千人堂には、
大晦日の夜、債鬼に追われた善人を千人匿った という伝説が残されてます。
千人も収容出来る御堂が岬のとっぱなに



では、まーりたんこれより椋鳩十先生が大分県の姫島を舞台に執筆された物語
『 ふしぎな石と魚の島 』 の世界へ紛れ込み、観音崎の冒険を楽しんでみたいと
思います


※「」内の台詞は作品より引用、以外の文章は作品を参考にしたオリジナルです。

「 そら、このあいだ話した山に案内しよう 」
春夫が言う山は、海岸寺から島北側の浜に出た所にそびえる観音崎です。
背丈程のススキをかき分け進むと、頂へ通じるウサギ道のように細く急こう配の
登り坂が。 物語が書かれた当時、


土の窪みに足先を掛け、ちょこちょこと猿の様に登って行く春夫を、都会育ちの
三五は、木の枝や根っこに掴まり、半ば四つん這いになって、追いかけます

春夫というのは姫島の海岸寺住職の息子さん。 三五は大阪在住の従兄弟で、
この物語の主人公。 夏休み


どうにか辿り着いた山の頂は、相変わらずの細道ながら平坦で、三五は一安心。
同時に、じじじーんという蝉の大合唱を耳にします。 崖をよじ登っている最中も
聴こえてたはずなのに。 人間の心というものは面白い、と三五は思うのでした


足元からは踏みしめる度に立ちのぼる、乾いた落ち葉や、朽ちた落ち葉の匂い。
これが本当の山の匂いかな?遠い昔に嗅いだ様な不思議な懐しさを覚えます


島西側の海が大きく開けます。 海蝕洞窟が見える斗尺岩を左手眼下に、道は
山の反対側へ降りる急勾配の坂となり


その細い下り道の途中から、岬のとっぱなに建つ小さなお堂が見えました



姫島七不思議 観音崎の千人堂です。 よくもまぁ、あんな場所にお堂を・・・

お堂の手前は、人が20~30人は座れそうな小さな広場になってはいるものの、
敷地を合わせても千人収容はさすがに無理っぽいですよネ

夜は、無限空間へ繋がる異次元お堂? とりあえず、近くまで急げ




「 おい、ここの岩をみてごらんよ 」 千人堂の前で春夫が言いました。
春夫が指差す岩は、ごつごつと灰色がかって、いかにも固そうです。 観音崎も
大昔、海底火山が何度も爆発して


御堂へ通じる石段の隙間から下を覗くと、切り立った崖に打ち寄せては砕ける
白波が見えました。 BGMには、火曜サスペンス劇場のテーマミュージック以外
なさそうな目もくらむ光景に、「 すごい海だなあ 」 三五は思わずつぶやきます。
ついでに、まーりたんも息をのみ、後ずさり



「 海よりも、この岩に意味があるんだぜ 」 春夫は少し得意げに言います。
「 ここの岩は黒曜石だ。 それも、ちっとばかりの量ではないぞ。 岬は海面から
40mあって、それが全部黒曜石。 露出してる所だけでも、幅120mもあるんだ。
この岩は6千~7千年前、姫島が栄えた港だった事を物語っている証拠の品さ 」

「 黒曜石がなぜ、古代の港と関係あるんだい? 伝説だろう、そんな話は 」
「 伝説なんかであるものか。 そうだなぁ、縄文時代の俺たちの先祖はまだ
鉄を持たなかったということだ。 あの時代の人々にとって、狩りをするとき
棒で殴ったり石を投げたりするばかりでは、獲物を獲るのは難しいじゃないか。
そこで弓

その矢じりにぴったりだった、つまり宝だったという事だ。 この岬の質と同じ
矢じりは九州、四国、山口、広島、山陰地方からも見つかっている。 古代人は
各地から宝の山、姫島を目指し、次々とこの岬へやってきた、というわけさ 」

「 姫島でなく、よそから出た石ということも考えられるじゃないの? 」
三五は言いました。

「 いや、決してよその石じゃないんだぜ。 灰白色で半透明な黒曜石は、九州や
四国や広島や山口や、鳥取、島根には無いのさ。 それに国東半島の岐部という
ところからは姫島の黒曜石の欠片が沢山出て、矢じりの細工場跡だったと学者が
言っているし、速見郡川崎の早水台には、姫島から運んだ重さ4キロの黒曜石も
あって、この辺りにも古代の細工場があったのであろうと、言われているぜ 」

都会育ちのせいか、何事にも悲観的で疑り深かった三五も、岬の岩に腰をおろし
春夫の話を聴くうちに、遥か遠く海原の果て、水平線の彼方に、イカダに乗って
姫島を目指す半裸体の日焼けした男達が、ぽつりぽつり現れる様な気がしたり、
ふたりのすぐ傍の黒曜石の崖で、古代の労働歌を歌いながら、カツン カツン

黒曜石を切り出す作業の音が、聴こえてくるような気持ちになるんですネ


この夜、三五と春夫は海岸寺の住職さんから更に詳しい黒曜石の話と、それに
加えて、藍鉄鉱を発見した中学生の話も聴き、ついに冒険心に火が点きます

そして、翌日から二人は古代姫島ミステリーを、自分達の手で確かめるべく、
汗びっしょりになって姫島中を駈け巡り、素晴らしい大人達にも出会います。
結果、三五と春夫が得たものは、古代姫島の謎だけに留まらない掛け替えの
ないもの、これから生きていく上で、心の基盤となる大切なものでした

あっ、千人堂の縁を歩く冒険家がここにも




だけど杖を手にしたこの女性

つまり慣れていらっしゃるんですね~。 まーりたんは、あんなとこまで行くのは
絶対に無理ですが、黒曜石の岬・観音崎を見物に来ていた特に熟年女性の方は、
国東で峯入り修行でも経験してるのかと思うほどの強者が、ほんと多かったです

こうして逞しい熟年女性を見かけると、真似は出来ずとも、勇気?を貰えます

と同時に、急こう配の崖を要領よく、ひょいひょいと登って行く春夫を追いかける
三五の気持ちを疑似体験

今回の姫島探訪レポ、そろそろ、この辺で、お開きにさせて頂こうと思います

長々と、拙い記事にお付き合い下さった方、心よりお礼申し上げます



自転車を ビ・ボーンさんにお返しして

夕食を済ませた後、フェリーのりば上空には、あらま上弦を少し過ぎたお月様

ひめしまジオパーク幟の左上あたりです


それではこれより第11便、18時発の姫島村営フェリーで、国東の伊美港へ
戻ります。 楽しい思い出と貴重な経験を、今回もありがとうございました


●参考、引用文献 : 椋鳩十全集22 『 ふしぎな石と魚の島 』 ポプラ社
※本文中の下線付き部分は、当ブログ内関連記事へのリンクです。
記事を最後までご覧下さり、ありがとうございます

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