『 人間は所詮は地上に縛られねばならぬ生き物だが、
それに空想を与えてくれるものは天である。
幸い播州の野は広く、天が広い。
子どもがトンボを追う。
あれは何か、と官兵衛は考える。
青い宙空を駆けているトンボは、天の切れっ端のようにも
天に暮らす眷( けん )族のようにも思え、
だからこそ追ったように思える。
売っていくらという利益になるわけでもなく、
またトンボが食えるわけでもない。
トンボがもし食えるものなら、子どもは追わないに違いない。
俺は幼いのだろうか 』
黒田官兵衛さんに興味を持って最初に読んだ小説、
司馬遼太郎先生の播磨灘物語を先日、読み返してみました。
第一巻 「 若き日々 」 の中で、官兵衛さんは、自分の中から除くに
除けない、二十歳を超えてもむしろ育っていくばかりの夢想的な部分を、
トンボを追いかける万吉くん時代の自分に重ね、自嘲するかの様に呟く
くだりがあります。 司馬遼太郎先生が播磨灘物語のなかで描かれる
黒田官兵衛さんは本当に瑞々しくて、そこに生きている様。 冒頭で抜粋した
この部分は特に好きで、本を開く度に繰り返し追ってしまいます



大河ドラマ・軍師官兵衛でも官兵衛さんは今、正にこうした自分探しの旅の只中。
天性の才覚と合理性、人の言葉の真意を汲み 冷静に自己分析もできる賢さを
持ちながら、掛け替えのない存在を失ったことで、身を持って戦国乱世の
過酷さを知り、哀しみや憎悪に翻弄される ウエットな若き岡田官兵衛さん。
傷心で出かけた堺では、大好物な饅頭でいずれ泣きを見る荒木村重さんに
助けられ

キリスト教とも出会い



明日の第四話は、生涯添い遂げるただ一人の妻・幸円( 光 )さんとの
出会いが描かれる模様

お悠という名で登場します。 ドラマではスレンダーな中谷美紀さんが
演じられますが、お悠( 光 )は透き通るように色白で美しい女性ながら、
官兵衛さんより背が高く、オシリの大きな大柄な女性だったようで、長男の
松寿丸( 後の黒田長政 )を産んでからは、ますます肥ってしまったそう

「 お前と廊下で行き違う時に、ワシは鮫とすれ違う小魚の様に当惑する

とか、「 最初は、明石の沖からアナゴが嫁( き )たのかと思った

官兵衛さんは悪びれず、お悠( 光 )さんを冷やかしてばかりいたんだとか

最初はふくれていたお悠( 光 )さんも、言われ続けるうちに慣れてきて
「 今日は飾磨( しかま )のフカだとおっしゃるのでございましょう

官兵衛さんが喩える前に言い返し、官兵衛さんもそんなお悠( 光 )さんに
満足し、心の安らぎを覚える、大変仲睦まじいご夫婦だった様子

“ 小寺氏の御着城殿中で、しかめっつらばかりしている小男( 官兵衛 )とは
別人の様であった ” と添える司馬先生の描写は絶妙で、粋すぎます


作家の方が、主人公とする先人の気持ちに少しでも近づきたいと、真摯に
心を寄せる事で無限に広がる想像世界や、受け取るインスピレーションは、
先人さんからの感謝のメッセージ、贈り物でもあるような気がするんですよね。
それを読者や視聴者が作品を通して共有できるのは、時代小説やドラマの
醍醐味です。 もちろん、どれだけ史実に沿った物語に仕上げて下さるかも
また然り。 明日の放送では、軍師官兵衛でオリジナル脚本を手がけられている
前川洋一さんが、どんな官兵衛夫妻を描いてくださるのか、楽しみです



今回の記事は、丁度そんな播磨灘物語を夢中で読んでいた頃、一昨年の6月
中津城下町を散策の折りに立ち寄らせて頂いた鷹匠町 和傘工房・朱夏さんの
写真と併せて、お届けしました。 傘鉾まつりのパネルを持って下さってる方は
和傘工房・朱夏の御主人です



和傘工房・朱夏さま、その節は快く工房内のお写真を撮らせて下さり、
また福澤諭吉記念館の入館割引券まで頂き、ありがとうございました

この場を借りてお礼申し上げます


※本文中の下線付き部分は、当ブログ内関連記事へのリンクです。
記事を最後までご覧下さり、ありがとうございます

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